健が廊下に出るのを待ってから、母親はそっと目瞼を開きました。まだ高まった緊張がしずまらずに、何度も彼女は肩で息をつきました。
飲んだのは睡眠薬でもなんでもなく、ただの鎮痛剤だったのです。彼は健をためすつもりで、眠ったふりをつづけました。彼は結局、なにもしないまま離れて行きました。こうなることは最初から彼女にはわかっていました。
むしろ、彼の子供じみた願望をこなこなに砕いてやるつもりでうった、芝居でとも言えます。女性経験などあってないような健に、自分の、出産経験のある熟れきった女を見せつけたら、興醒めするのはわかっていました。おそらくそれは、おぞましい光景だったにちがいありません。
これでいいのよ。彼女はひとり、つぶやきました。彼が消し忘れた照明のスィッチを押し、再びたれこめた暗がりの中で彼女は、なかば安堵しながらベッドに横たわりました。しばらくして、今度は本当の寝息が聞こえ始めました。
彼女は下腹部に圧迫感をおぼえて、驚いて目を覚ましたました。
が、ベッドには自分ひとりがいるだけでした。全裸の健が再び寝室に忍びこんできて、自分に襲いかかる夢をみたのでした。彼女はまだ荒い息をつきながら、闇に慣れた目でドアのほうをながめました。それが開いた形跡はありません。それではやぱり夢なのか………。ほっとする反面、なにか残念な気持ちがこみあげてくるのを彼女は感じました。下腹部にわずかに異物感が残っているのは、夢がもたらす余韻でしょうか。
翌朝、キッチンにあらわれた健を、彼女はまっすぐにみすえて、
「おはよう。よく眠れた?」
と声をかけました。
「うん、母さんは」
「眠れたわよ」
それはいつもの、母と息子の会話でした。
「父さんがかえってくるのは、明後日だっけ」
「そうよ」
それだけきくと健は、さっさと朝食を食べ終えて、自分の部屋にもどっていきました。
昼をすぎても出てこようととはしない彼を案じて彼女は、二階にあがっていきました。
彼はベッドで眠っていました。昨夜はあまり眠れなかったのでしょう。彼の枕もとにまわった彼女は、うえから彼の顔をのぞきこみました。心地よさそうな寝顔ではありません。眉間は皺がより、苦悩に表情がゆがんでいます。きのうはさぞかし若い彼にはショックだったにちがいありません。
きゅうにかわいそうにおもえて彼女は、健の顔をそってなでつけました。
「かあさん」
ふいに彼の口からその言葉がでて、おそらく無意識に手を、こちらにさしのばしました。彼女がそのままにしていると、彼の腕が首にまきつき、強い力でたぐり寄せられました。
アッと思ったときには彼の唇が自分の唇におしつけられていました。彼女は体を脱力させ、彼に抱き寄せられるにまかせました。彼に意識があるのかどうはわかりませんでしたが、昨夜あんなひどい目にあわせた彼に詫びたい気持ちが彼女を後押しして、気が付くと彼の体の上に重なりあっていました。
いきなり健が、彼女を抱いたまま体を返すなり、ほとんど衝動的ともいえる動きで彼女のスカートをまくりあげ、あらあらしく下着をはがしとるなり、あっという間に自分の硬直した肉を彼女の中につきいれてきました。
彼女は目を大きくみひらいたまま、じぶんのなかに挿入された健の硬い肉が、下腹部を何度もつきあげてくるのを意識していました。
下の方からこみあげてくる欲情に彼女は怯えながらも、体がそれに反応して悶えだすのをどうすることもできないまま、健の肉体に強くすがりつきました。